転倒予防-転ばぬ先の杖と知恵:武藤芳照
日本体育大学教授や東京大学教授を歴任した武藤芳照氏の著書が「転倒」-転ばぬ先の杖。岩波新書から発行されています。人間にとっての脚の大切さ・転倒によって起きる多くの事象を紹介していますので、一度、読んでおくといいと思います。
特に、杖やバリアフリーに拒否感を持っている方に、お勧めいたします。介護する側が読んでもいいのですが、介護される側の心構えになる要素が強い本。
健脚度が低い高齢者は、要介護の危険度が高い
脚の老化が早い人は、要介護になりやすいというデータ、2000年に長野県東御市の高齢者を対象にして研究。健脚度の低い方は、要介護認定で2.5倍・要介護2以上で2.3倍・死亡で1.9倍も危険性が高いという結果が出ています。
転倒する原因は3つ
- 老化(加齢)
- 病気と薬の副作用
- 運動不足
年を取るとどうしても転びやすくなり、骨折などの怪我が生じやすくなります。そして、本当に恐いのは転倒や骨折よりも動けなくなること。転んだ直後は、骨折・打ち身などで入院やベッド生活になることがあります。すると、動かないことで運動能力が低下してしまい、寝たきりや健脚度が下がる結果になるのが怖い。
若い頃は気にならなかった少しの段差でもつまずきやすくなります。
皆に迷惑をかけたいくないという思いから、転ぶのを恐れて歩かなくなる方の事例。逆に骨折のスペシャリストとも言うべき、何度骨折しても歩き出すタフな方の例もでてきます。リハビリを頑張れば歩けるようになるのは、私の両親での実例もあります。
これは、本人の気力・体力に加えて周囲の理解と努力も必要。年取った親兄弟に上げ膳据え膳とばかりに、何でも世話をすると、それに慣れた方の生活能力は下がります。心を鬼にして自分でできることは自分でさせることも必要でしょう。介護支援の問題点のひとつとして、家事や買い物支援をヘルパーさんが行うことで、本人が頼りきりになってしまい、本来の目的と反対に介護度を高めることになることも紹介されています。
もちろん、大多数の介護者にとって、ホームヘルパーはありがたい存在であり、できないことを助けてくれます。そこに、自分でできることはできるだけ自分で行うという視点が必要なのでしょう。
転ばぬ先の杖
杖は、脚が弱り転びやすくなった方に最適のアイテム。ところが、素直に使う方は少なく、杖を使うのは年よりっぽくて嫌・杖を使うなら外出しないと嫌がります。
杖=老人というイメージが世間的にあり、拒否する人は多いはず。しかし、転倒防止・疲労防止に最適な杖を使うことをもっと広めていきたいと武藤芳照先生は杖をすすめています。スフィンクスの三本足のように!
杖の選び方も書いてありますので、初めて杖を使おうかと考えている方・杖を拒否する方に読んでいただきたいと思います。
武藤芳照氏の経歴
名古屋大学医学部卒。東京大学大学院教授、同教育学研究科長・教育学部長を経て2011年東京大学理事・副学長、2012年東京大学名誉教授、2013年4月より日体大総合研究所所長。2014年4月日本体育大学保健医療学部教授にも就任。公益財団法人身体教育医学研究所名誉所長。日体大総合研究所
五輪の水泳チームなどスポーツ医学の分野で高い業績を残している方。